大地のコレクション展2022

川俣 正

川俣 正 1953-

川俣 正 1953-

1982年にベネチアビエンナーレに参加して以来、世界を舞台に活躍する川俣の作風は「製作プロセスそのもの」も作品であるということである。川俣の手がける大がかりなプロジェクトではアパートや公共空間に材木を張り巡らし、空間そのもののとらえ方を作品として見せているが、そこでは観客の動きまでもが作品のプロセスとなる。プロジェクトを実施するために作られる模型や平面レリーフもそうした意味でプランではなく一つ一つがそこに至るプロセスを抱えた作品だと言える。インスタレーションという手法をいち早くとりいれた川俣だが、最近個別作品の人気も高まっている。

■略歴・賞歴
1953 北海道三笠市生まれ
- 1979 東京藝術大学美術学部油画科卒業
- 1984 東京藝術大学美術学部博士課程満期退学
- 1999-2005 東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授
- 2006- 2019 パリ国立高等芸術学院教授 ( 2019年退官)
■主な個展
2022  Nest in Milano , Building Gallery/ ミラノ
 2021  オブザベーションタワー/ヘルシンキ
2020 Destruction カメルメノウ. アネリージュダ
2019 Nest project in Nantes / ナント
2018  金沢スクオッターズプロジェクト 金沢21世紀美術館/ 金沢
2017 「 工事中 」 再開 アートフロントギャラリー / 東京
- 川俣正-Crossroads 清津倉庫美術館 / 新潟
- 2016  Under the Water ポンピドーセンターメス / フランス
- 2014  アジア・パーマネント・コレクション 応用芸術博物館(MAK) / ウイーン
- 2013  44th アートフェア・バーゼル / スイス
- 2012  BankArt Studio NYK / 横浜
- 2011  北海道インプログレス / 北海道 (’12, ’13)
- 2010  東京インプログレス / 東京 (’11, ’12, ’13)
- 2009  コールマイン・プロジェクト インスタレーション「景」 目黒区美術館 / 東京
- 2008  通路 東京都現代美術館 / 東京
- 川俣正~工事中その後 ヒルサイドフォーラム / 東京 (Art Front galleryによるコーディネイト)
- ツリーハット / ニューヨーク、マイアミ
- 2007  椅子による聖堂 / ランス、フランス
- オブセルバトアール / ナント、フランス
- 2005-6  メモリー・イン・プログレス / サンテロー
- 2004  ワーク・イン・プログレス豊田 / 豊田
- ウッド・テラス・ビーチ / バーゼル
- 2003  コールマイン田川2003 / 田川
- 2001  デイリーニュース 水戸芸術館 / 水戸
- 2000  トレンチ・アンド・ブリッジ / ミドルハイム
- ロッジング・ロンドン / ロンドン
- 道往き / エヴリュウ、フランス
- 1998  芸術の家 州立近代美術ギャラリー / ミュンヘン
- 椅子たちの旅 オテル・サンリヴィエール
- 1997  椅子の回廊 サンペトリエール病院
- 1996  サイド・ウォーク / ヴィナー・ノイシュタット
- ワーキング・プログレス / アルクマー
- 1993  フラウエンバット / チューリッヒ
- 1992  ルーズベルト・アイルランド / ニューヨーク
- 1984  工事中 ヒルサイドテラス / 東京 -
■主なグループ展
2021ヘルシンキ.ビエンナーレ
2020ユートピアーデストピア. アネリージュダ
2019トラヴェルセ.ポアチエ 
2018東アジア文化都市金沢
2017北アルプス国際芸術祭
2016東アジア文化都市奈良
2015ブルージュビエンナーレ
2014別府プロジェクト
2013トロントヌイブランシュ
2012 トラック.ゲント
2011 リヨンプロジェクト
2010 瀬戸内国際芸術祭
- 2003 ヴァレンシア・ビエンナーレ
- 2002 釜山ビエンナーレ
- 第4回上海ビエンナーレ
- 2000 越後妻有アートトリエンナーレ(’03, ’06, ’09, ’12)
- 1998 第11回シドニービエンナーレ
- 1997 第3回ミュンスター彫刻プロジェクト
- 1987 第19回サンパウロ国際ビエンナーレ
- ドクメンタ8 (’92)
- 1982 第40回ヴェネチア・ビエンナーレ

■主な受賞歴
2013 芸術選奨 文部科学大臣賞受賞

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川俣正(1953-)は1970年代終わりから、主に都市の建造物に木材を用いた仮設の作品を設置する制作活動を始めました。与えられた場所の歴史的意味を掘り下げ、インスタレーションを通じて新たな風景を提示するという新しい手法は国内外で注目を集めました。

川俣正「工事中」1984、展示風景、代官山ヒルサイドテラス

代官山ヒルサイドテラスを舞台に展開された《工事中》(1984) は川俣正と3月に逝去された池田修・元BankART1929代表、北川フラムの共同プロジェクトとして知られていますが、その後川俣は80年代にはNYのP.S.1に招聘され(1985)、カッセルのドクメンタ(1987/1992)など広域な範囲でプロジェクトを展開しています。瓦礫その他、多様な方法で集められた素材を使った制作プロセス全体が作品化され、プランドローイング、マケット、フォトドキュメントなどが残されていきます。川俣の仕事は常に現在進行形であると同時に、実践の記録がアーカイブされていく点でもユニークです。

《Installation for Hara Museum Arc (A-7)》1990 バルサ材、アクリル、合板  810x1220x80mm

今回出品されているこちらの作品は、ハラミュージアムアークでのインスタレーションのマケットです。
これはハワード・フォックスの企画した10人の彫刻家の展覧会、《A Primal Spirit》 (プライマル・スピリット 今日の造形精神)展のために構想され、実際にハラミュージアムアークにて設置されました。日本の戦後美術を理解するときに、自然物との親和性を論じた同展の中で、海老塚耕一・遠藤利克・戸谷茂雄などに比べて、川俣の作品はモニュメンタル物質の塊というよりも、より周囲空間を巻き込んだ軽やかな作品となっています。

《Coal Mine Tagawa Plan 6》1996 バルサ材、アクリル、合板  810x1220x80mm

「コールマイン田川」のマケットは、別の趣を発信しています。筑豊炭鉱の重要な拠点であった福岡県田川は、近代までのエネルギー産業を推進してきた街として川俣の興味を強くひきました。
炭坑の入り口を思わせる櫓を組み、その屹立する黒い立体造形にコミュニティのシンボルとしての機能を託したかのような作品は、1996年に始まり毎年少しずつ進められました。足かけ10年の歳月と、廃線の枕木など近郊から調達した木材を使って作品が完成し、地元の盆踊りなど季節の行事に人々が集まる場となりました。

川俣正 "Under the Water" 展示風景、ポンピドゥー・センター・メス、2016 photo by the artist, Tadashi Kawamata 川俣正撮影

近年の川俣の代表的なプロジェクトに、2016年にポンピドゥー・センター・メスで開催された個展、《Under the water》があります。東日本大震災が起こった後に開催された同展は自然災害を表現した例といえるでしょう。この大型インスタレーションは扉やイス、窓、既に当初の姿をとどめていないような木製の瓦礫によって構成されています。作品全体が見るものに強く訴えてくるのは、2011年3月に日本を襲った巨大な津波の前後に、水の中で人々が何を見たのか、どのようにこの世界が見えたのかという視点と、地震で破壊された建物や崩れた何トンもの瓦礫が水面を覆いかぶさる中で、永遠にその水面には浮き上がってこられないという絶望的で希望が断たれた感覚です。

《Tsunami No.19》 2016 パネル、木、メタル、ペイント 1530 x 2100 x 80mm

Tsunamiプロジェクトは、パリのギャラリーKamel Mennour にて、震災後1年経たないうちに展示されました。もし川俣が日本にいたらこのような悲劇を直截的に表現するのは難しかったかもしれません。日本の外にいるからこそ違った角度からこの事象に対峙することができ、このトピックスをもっと客観的な側面から世界にむけて発信することができたといえるでしょう。地震だけでなく多くの犠牲を生み出した津波について、彼の拠点であるパリで展示することができたのは、日本人アーティストによる創造だったからではないでしょうか。その後もTsunami シリーズは継続して制作され、2016年のポンピドーでの個展のために制作された一連の作品の1つ《Tsunami No.19》が出品されています。

そして、旧清水小学校に制作された、今年の新作も見逃せません!
ご注目ください!

新作《スノー フェンス》2022 、制作風景、大地の芸術祭2022、 旧清水小学校、撮影:中川達彦

Tsunami No.19
2016
1530x2100x80mm
パネル、木、ペイント、金属
Coal Mine Tagawa Plan 6
1996
810x1220x80mm
バルサ材、アクリル、合板
Project Begijnhof, Kortrijk no.14
1990
810x1220x100mm
バルサ材、アクリル、合板
Installation for Hara Museum Arc (A-7)
1990
810x1220x80mm
バルサ材、アクリル、合板
Favelas in Houston Maquette 94
1991
950x1850x2450mm
バルサ材、合板
【追加展示:2022/8/21~11/13 】Calyx Stage Set for Lucinda Childs Dance Company
1987
1280 x 630 mm
写真

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