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【レポート】河口龍夫作品を巡るアートツアーin越後妻有

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【レポート】河口龍夫作品を巡るアートツアーin越後妻有

2019/10/18

春・夏・秋と開催中の「河口龍夫:時の羅針盤」展も、いよいよ終盤の秋会期が幕をあけました。

ここでは、7月末に開催した「河口龍夫の作品を巡るバスツアー」の様子を紹介します。

清津倉庫美術館[SoKo]からスタートし、越後田沢駅の「未来への航海」「水から誕生した心の杖」、農舞台の「関係 - 黒板の教室」「引き出しアート」、まつだいの「関係--大地・北斗七星」と河口龍夫作品づくしの本ツアーでは、越後妻有地域に河口が制作した作品と今回の美術館展示の「関係」など、作家を初め、以前から河口龍夫をよく知るツアー参加者が作品の魅力を語ってくださいました。

《水から誕生した心の杖》2012 



越後田沢駅のアトリエワンが手がけた駅舎の中に、現在2点の作品が展示されています。

河口:奥の部屋には水槽と空中に舞う杖のインスタレーション。円形の水槽がありまして、地元の方が使ってらっしゃった杖を空中に浮かべた作品なんです。それは地域の亡くなった方が使っていた杖です。それで杖を作品にしようと思ったのですが最初のほうは全く集まらなくて、どうしてかというと、どうもお棺に杖を入れてしまうらしいんですね。あの世でも杖をついて歩けるようにと。それはよくわかるんですが、ただ予備の杖というものがあって、それが作品になるならということで提供してくださいました。集まらないときは自分で杖をつくりましたので、それも壁に貼り付けました。水槽の上にぶらさがっている杖が水面に映りますとあたかも杖が天空に向かっているようなイメージになりました。雨の日には水槽に向かって雨水が落ちるんですが、今日は天気がいいのでそうはなりません。あと入口のところに一つだけ杖があって、それは僕の杖です。まだ一度もついてないんですが、晩年取りに来ようと思っています。

アトリエ・ワン+東京工業大学塚本研究室《船の家》2012

《未来への航海》 2012



もう一方の入り口側の部屋では、黄色く塗られた船が来訪者を迎えてくれます。

河口:この作品は最初に発電所美術館から依頼があって、予算がこれだけしかないけれどもやってほしいと。少なかったんですけれどもものすごい熱意があって、そこで僕が和船を見つけてくれたら展覧会をやるといったら、すぐにみつけてくれました。それを見に行ったんですけれども倉庫に埋まっているような感じでした。漁師の息子さんがサラリーマンになったので舟が捨てられたんですね。その舟に蓮を挿して、これだけ挿すのも大変なのですが、蓮の種子のエネルギーで浮くという考えでした。

《河口龍夫-時の航海》展 2008 、発電所美術館の展示風景 photo by Sadamu Saito



発電所美術館での《河口龍夫-時の航海 》展(2008年)の翌年、東京国立近代美術館で同じ舟が展示されました。《河口龍夫展 言葉・時間・生命》では、床置きのインスタレーション《木馬から天馬へ》として展開されたのですが、展覧会を企画された学芸員さんも今回のツアーに参加し、展示計画段階で「吊る」以外のアイディアが出てきたことを明かしてくださいました。

参加者:今からちょうど10年前に河口先生の展覧会を担当させていただきました。大きな船の作品を10年前の近美で設置させていただきまして、実はそれよりさらに1年前に富山県の発電所美術館で最初に展示したんですけれどもそのときは発電所の大空間で天井から船をつるしてすごくかっこいい展示だったんですね。実は河口先生は東近美でもつるしたいとおっしゃったんですが、先生、それを近美でやると天井抜けます、といって床に置かせていただいた。そうすると今度は床がぴかぴかしまして、船の黄色い船体を床が反射してしかもいっぱい銅線から種子が出ていて、それがちょうど波打って船が進んでいくようなそれはそれですごく美しい作品になりました。とてもよかったなあと思っています。
展覧会が終わってからこの船どうしましょう、といったら先生が越後妻有で使えるとおっしゃって、それでは妻有の倉庫の方に展覧会終わったら返しにあがります、といったんですが、そのときがちょうど真冬だったんです。それでドカ雪の中作品を返しに着まして、作品を倉庫に入れる前に私2時間以上雪かきをしまして、とってもいい思い出があります。

《河口龍夫展 言葉・時間・生命》東京国立近代美術館 展示風景 photo by Sadamu Saito



参加者:清津倉庫美術館に展示されている船《関係-浮遊する蓮の舟》と先ほど見た田沢駅の船はやはり繋がりがあるんでしょうか。

河口:よくぞ言ってくださいました。実は舟も越後田沢の舟の方向性、前と後ろがあるんですね。倉庫美術館の舟はで前と後ろがない、どちらにでも進むことができるので前進とか後進とかがわからないんですね。この作品は人類が方向を前にいこうか後ろに行こうか迷ってる。それがあったんですね。越後田沢の作品はまっすぐに進もうとする、だから進めないんですね。一つの方向としては浮くっていう、上下に浮くっていう方法があります。二つの舟のありようは違っています。

「関係-浮遊する蓮の船」2007 越後妻有清津倉庫美術館2019個展 展示風景

「関係-時のフロッタージュ:デポン紀、ゾステロフィルム(古生マツバラン類)#256」1997



参加者:倉庫美術館の《時の羅針盤》というタイトルに重ねて思うんですけれども、時間というものがどちらに向かっているか、タイトルを目にして考えました。僕らは何かの判断をしようとするときに、ほとんど現在の時価で判断するか、それともこれまでもってきた時間、経験といってもいいと思いますが、自分の後ろにある時間を基準にするかで大きな違いがあると思います。そうすると簡単に未来は前にある、といえない気がするんですね。河口さんのいう未来という言葉も、夢といった言葉をいざなう未来は河口さんにとっては無関係に映るんじゃないかと思うんですね。

河口:大変興味深いです。はっきりしたことではないんですが、時間に関するドローイングをしていて、現在があって過去があって、未来というのはひょっとしたら時間が全くないんじゃないかと思う。全く時間がない世界に向かって現在が向かっていく、それはおかしいですかね?

参加者:同感です、先には何もない。未来には時間がない。

田沢駅の次は、越後妻有トリエンナーレのまつだいに置ける拠点として2000年に建てられた農舞台に向いました。

「関係-大地・北斗七星」まつだい



参加者:この作品を最初にみたときに、河口達夫ともあろうものがこの作品はなんだという感想を持ちましたが、今北斗七星と聞いて納得している。

河口:地上に出る作品もあるけれども僕は雪に埋まる作品にした。僕は控えめに、目立たないようにしている(笑)。でも2メートル超えているからわりと大きいね。いろいろなプランがあったんだけれどもメンテナンスが難しい。地下に梁がはいっていて、ビス止めしている。コールテン鋼はいいんだけどビスがダメになるね。
地元の方に愛される作品でないとダメ。地元の人たちが自分の友達を連れてくるような作品にしました。コールテン鋼は錆びさせながらそれ以上錆びさせないようにする性質があるみたいで、これ以降わりと鉄の作品をつくるようになりましたね。僕は物質がもっている性質が好きなんですね。鉄は錆びる、銅は熱を通す、自分がもっていなくて物質がもっている性質。

参加者:50年ぐらいすると腐蝕してなくなってしまうんでしょうか?

河口:僕が生きている間は大丈夫(笑)。
今回倉庫美術館の展示で北斗七星を並べようと思ったのは、明らかに妻有で最初にやった作品と関係づけようと思ったからです。ひとつは自然、もう一つは体育館に置かれ、片方は大地ともう一つは水とかかわっていて、今日の一つのスリルを感じるものとして妻有の最初の作品と倉庫の作品の関係がどう見えるか、そういうことを考えて展示しました。

関係-地上の星座・北斗七星 2008 越後妻有清津倉庫美術館2019個展 展示風景




今回のツアーでは、清津倉庫美術館での展示作品と広域エリアに点在する河口の作品の関係性を改めて考える機会となりました。設置時から時が経って駅舎空間に馴染んでいる作品や農舞台の黒板の教室のように地域の廃校のようすを示唆する作品、そして「北斗七星」「舟」といった、河口が繰り返し扱う主題が妻有の地において今後もどのように展開していくのか、余韻を残してツアーは終わりました。

秋会期は妻有の河口作品を見られる最後のチャンスとなります。秋風の中に佇む作品を楽しんでいただければ幸いです。

河口龍夫―時の羅針盤
清津倉庫美術館にて
秋会期 2019年10月19日(土)、20日(日)、26日(土)、27日(日)、11月2日(土)、3日(日)、4日(月)








アーティスト

清津倉庫美術館での展覧会

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